色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

自然界には法則がある。木の枝を離れたりんごは地面に落ち、あたたかいコーヒーはやがて、つめたくて苦いものになる。自然界だけではなく、すべての世界に法則がある。(すべて自然界ととらえることもできるが。)人間も法則にしたがって動いている。正しい時に正しいことをする必要がある。正しい時に正しいことをすれば、やがて正しい未来のある時点に正しい結果が返ってくるだろう。しかし、「正しい」とは何だろうか。「正しい」と判断するのは何だろう。
もし正しい時に正しいことをしなければ、正しい結果は得られない。かわりに恐ろしい何かが待ち受けているかもしれない。しかし、その恐ろしいものも、ただ自分にとって恐ろしいというだけで、自然界にとっては法則に則ったものだ。
たとえ誰かが殺されたとしても、それは法則に則った事象である。世界は真っ赤な血を必要としているのだろうか。どうして真っ赤な血を必要としているのだろうか。それは、世界がそれ自身としては色をもたないからかもしれない。